家族信託が必要ない家庭とは?向き不向きの判断基準を司法書士が解説
家族信託は、認知症による資産凍結を防ぐ手段として注目されています。しかし、すべての家庭に必要な制度ではありません。「話題だから」という理由だけで契約すると、費用に見合う効果が得られず後悔することもあります。
この記事では、家族信託が必要ない家庭の特徴や、遺言書・成年後見制度との違いを踏まえた判断基準を、司法書士がわかりやすく解説します。
家族信託とは?基本的な仕組みと「必要ない」と言われる理由
家族信託は、信頼できる家族に財産の管理を託す仕組みです。柔軟に使える便利な制度ですが、契約には手間や費用がかかるため、検討の段階で不要と判断されることもあります。まずは基本の仕組みと、不要論が出る背景を整理します。
家族信託の登場人物(委託者・受託者・受益者)の役割
家族信託には、財産を託す「委託者」、管理を任される「受託者」、利益を受け取る「受益者」の三者が登場します。一般的には、高齢の親が委託者兼受益者となり、子どもが受託者として財産を管理します。
この仕組みにより、親の判断能力が低下した後も、子が代わりに不動産の売却や預金の引き出しを行えます。ただし、信頼して任せられる受託者候補がいない家庭では、そもそも契約が成立しにくくなります。
認知症による「資産凍結」を防ぐ財産管理の仕組み
判断能力が低下すると、預金の引き出しや不動産の売却が難しくなる場合があります。家族信託を契約しておくと、受託者が本人に代わって財産を動かせるようになります。介護費用を捻出するために実家を売却するといった場面でスムーズに対応できる点が特徴です。
一方で、売却や大規模な管理の予定がなく、財産もシンプルな家庭では、この機能を活かす場面は少なくなります。
なぜ「家族信託は必要ない」と言われるのか
家族信託の契約書作成には、専門家へのコンサルティング費用や公正証書の作成費用がかかる場合があります。加えて、受託者には帳簿作成などの事務負担が生じ、親族間の合意形成にも時間を要します。
「死後の遺産分割だけを決めたい」「生活面のサポートが中心」といった目的であれば、遺言書や成年後見制度のほうが適していることもあります。費用や手間を踏まえた結果、家族信託を過剰な対策と感じるケースは少なくありません。
家族信託が必要ない・遺言書で十分な3つのケース
家族信託と遺言書は、どちらも財産の承継に関わる制度ですが役割が異なります。目的が「死後の遺産分割」に限定されている場合は、遺言書だけで十分に対応できることがあります。
相続発生後の「遺産分割」だけが目的の場合
亡くなった後の財産の分け方を決めておきたいだけであれば、遺言書で対応できます。遺言書は死後の承継先を指定する機能に特化しており、作成の手間も信託契約に比べて少なくて済みます。家族信託は生きている間の財産管理を主な目的とする制度のため、死後の分割だけを望む家庭には不向きといえます。
財産がシンプルで、管理への不安が少ない場合
信託すべき特別な財産がなく、預貯金も日常の範囲内であれば、家族信託は必要ないケースが多いといえます。自宅と少額の現金のみで、売却や大規模修繕の予定がない場合などが該当します。
家族信託は、不動産の有効活用など積極的な管理が必要な場合に力を発揮する制度のため、シンプルな資産構成であれば導入のメリットは限られます。
二次相続(次の次の相続)まで指定する必要がない場合
家族信託には、受益者が亡くなった後の次の承継先まで指定できる機能があります。しかし、多くの相続では、一代先の承継を決めておくだけで十分です。先祖代々の資産の承継ルートを固定したいといった特別な事情がない限り、この機能を使う必要性は低いと考えられます。
法務局による自筆証書遺言書保管制度を活用すれば、遺言書の紛失防止にもつながります。
参考:法務省「自筆証書遺言書保管制度」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
成年後見制度で足りる?家族信託との違いから見る判断基準
財産管理の対策として、家族信託とよく比較されるのが成年後見制度です。両者は目的や権限の範囲が異なるため、家庭の状況によって適した制度は変わります。
財産を「守る」後見制度と「活用する」家族信託の違い
成年後見制度は、判断能力が十分でない人の権利を守るための制度です。財産を維持・保全する性質が強く、積極的な運用や売却には家庭裁判所の関与が必要になる場合があります。
一方、家族信託は契約の範囲内で受託者が主体的に財産を動かせる点が特徴です。財産を安全に残すことを重視するなら、後見制度のほうが安心感を得やすいといえます。
家族信託では対応できない身上監護(生活・介護の手続き)
成年後見制度では、介護サービスの契約や施設入所の手続きといった身上監護も担います。本人の権利を法律的に支援する制度として位置づけられているためです。家族信託はあくまで財産管理の契約であり、受託者が生活面の契約を代理することはできません。
生活支援まで見据える場合は、後見制度の利用や併用を検討する必要があります。
初期費用とランニングコストで比較するトータル費用
家族信託は契約時にまとまった費用がかかる一方、家族が受託者となれば継続的な報酬は原則発生しません。成年後見制度は、専門職が後見人となった場合、財産管理の内容に応じて報酬が継続的に発生します。
東京家庭裁判所の資料では、通常の後見事務における基本報酬の目安は月額2万円とされ、管理財産額が1000万円を超え5000万円以下の場合は月額3万円〜4万円、5000万円を超える場合は月額5万円〜6万円とされています。
| 項目 | 家族信託 | 成年後見制度(専門職が就任した場合) |
|---|---|---|
| 主な目的 | 財産の柔軟な管理・運用・承継 | 財産の保護・生活面のサポート |
| 継続費用 | 家族が受託者なら原則不要 | 月額2万円〜6万円程度(財産額に応じて変動) |
| 身上監護 | 対応できない | 対応できる |
【フローチャートで診断】わが家に家族信託は必要か?4つの見極めポイント
家族信託が必要かどうかを判断するには、将来のビジョンと現在の家族関係を確認することが役立ちます。以下の4つのポイントをチェックしてみましょう。
ポイント1:判断能力が低下した後、不動産の売却や修繕の予定はあるか
認知症の発症後に、自宅の売却や不動産の管理判断を行う必要があるかどうかが一つの目安になります。施設入所の資金を作るために実家を売却する予定があるなら、家族信託が有効に働く場面といえます。
一方、そうした予定がなく、管理内容に変更が生じる可能性が低いのであれば、信託を急ぐ必要は薄いと考えられます。
ポイント2:信頼して財産管理を任せられる受託者の候補はいるか
家族信託は、受託者への信頼が前提となる制度です。受託者は受益者のために誠実に財産を管理する義務を負います。事務処理に慣れており、他の親族からも信頼されている候補者がいない場合は、無理に信託を組まず、後見制度など別の方法を検討したほうが安心です。
ポイント3:農地や年金受給権など「信託できない財産」が中心ではないか
保有資産の種類によっては、家族信託を利用できない場合があります。代表的なのが農地と年金受給権です。農地法では、農地の権利の設定や移転について都道府県知事等の許可が必要とされており、農地をそのまま信託財産にすることは難しいとされています。
また、年金受給権も信託の対象にはできません。財産の大部分がこうした資産である場合は、信託の効果が限定的になることがあります。
参考:e-Gov法令検索「農地法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC0000000229
ポイント4:遺留分を侵害するような相続内容になっていないか
相続人には、最低限の取り分である遺留分が保障されています。生前の贈与や遺言によっても、この権利を奪うことはできません。家族信託の設計内容が特定の相続人に偏っている場合、遺留分侵害額請求をめぐるトラブルに発展する可能性があります。財産配分のバランスも含めて検討することが大切です。
家族信託を選ぶべきでない家庭が直面する3つのリスク
メリットが強調されがちな家族信託ですが、状況によっては費用面や人間関係の面でリスクが上回ることもあります。ここでは代表的な3つの注意点を紹介します。
費用に見合うメリットが得られない可能性
家族信託の契約書作成には、コンサルティング費用や公正証書作成費用などがまとまってかかることが一般的です。それだけの費用をかけても、信託期間中に管理が必要な場面がほとんどなかった場合、支出が見合わないと感じることもあります。導入前に見積もりを確認し、費用対効果を冷静に検討することが大切です。
受託者への権限集中が招く、親族間の不信感やトラブル
受託者には財産管理の大きな権限が与えられます。特定の子どもだけが受託者となる場合、他の兄弟姉妹から「使い込んでいるのではないか」と疑われることもあります。もともと親族間の関係に不安がある家庭では、こうした不信感がトラブルに発展しやすくなるため注意が必要です。
損益通算ができないなど、見落としがちな税務上の注意点
信託財産である不動産から損失が生じた場合、信託していない他の不動産所得と損益通算できない場合があります。この点を知らずに契約すると、想定していなかった税負担につながることもあります。税務面への影響については、契約前に税理士等へ確認しておくことをおすすめします。
後悔しない生前対策の進め方!専門家へ相談する3つの手順
家族信託が必要かどうかを見極めるには、順を追って準備を進めることが大切です。焦って契約を進めるのではなく、まずは足元を整理することから始めましょう。
手順1:判断能力が十分にある「元気なうち」に現状を整理する
家族信託や遺言書は、本人の判断能力が十分にあるうちでなければ契約や作成ができません。まずは保有している財産の種類や金額を一覧にまとめ、将来どのように管理・承継したいかを整理しておくことが最初の一歩になります。不動産については、現在の評価額や登記状況も確認しておくと安心です。
手順2:家族会議を開き、財産承継への想いを家族で共有する
生前対策は、本人だけで決めるものではありません。誰にどの財産を託したいか、なぜその選択をするのかを家族で話し合っておくことで、相続発生後の誤解や対立を防ぎやすくなります。早い段階での対話が、後々の安心につながります。
手順3:特定の制度を押し売りしない、中立的な司法書士に相談する
家族信託・遺言書・成年後見制度には、それぞれ得意分野があります。特定の制度に偏らず、家庭の状況に合わせて複数の選択肢を比較しながら提案してくれる専門家に相談することが大切です。日本弁護士連合会の「民事信託業務に関するガイドライン」でも、依頼者の意思を尊重した適正な利用が求められています。遺言や後見制度、預貯金の解約手続きまで一気通貫でサポートできる中立的な司法書士へ相談することで、無理のない生前対策を進めやすくなります。
まとめ:家族信託は選択肢の一つ。わが家に合った生前対策を
家族信託は、認知症による資産凍結を防ぎ、柔軟な財産管理を実現できる制度ですが、すべての家庭に必要というわけではありません。財産がシンプルで死後の分割だけを望むなら遺言書、生活面のサポートを重視するなら成年後見制度のほうが適していることもあります。
「費用に見合う効果があるか」「信頼できる受託者がいるか」を冷静に確認することが、後悔しない生前対策の鍵になります。まずは元気なうちに家族会議を開き、複数の制度を比較できる中立的な専門家へ相談することから始めてみてください。
【無料相談のご予約はこちら】 TEL:0120-855-858(受付時間:平日9:00〜20:00/土日祝も対応)

