死んだ親の借金は時効で消える?消滅時効の援用と相続放棄の使い分け
亡くなった親宛ての古い借金の督促状が突然届くと、驚いて不安になるのは自然なことです。「亡くなった人の借金は放置してよいのか」「借金は本人が亡くなればなくなるのではないか」と疑問に思う方も多いでしょう。
結論として、親の借金は自動的に消えるわけではありません。ただし、最後の返済から一定の年月が経っている場合には、「消滅時効の援用」という手続きによって、返済義務が消える可能性があります。
この記事では、古い借金の督促でお困りの方に向けて、時効が認められる条件や、もう一つの選択肢である「相続放棄」との使い分けについて解説します。
亡くなった親の借金は放置してよい?「時効で消える」の考え方
親が遺した借金の督促状が届いたとき、避けたいのは内容を確認せずに放置してしまうことです。まずは、借金が相続人に引き継がれる法的な仕組みと、返済義務が消える「時効」の基本ルールを確認しましょう。仕組みを正しく理解することで、落ち着いて対処しやすくなります。
借金は自動的には消えない|親のマイナスの財産も「相続」される
「借金は本人が亡くなれば消える」と思われがちですが、これは正確ではありません。
親が亡くなると、子どもなどの相続人は、現金や不動産といった「プラスの財産」だけでなく、借金や未払金といった「マイナスの財産」も原則として引き継ぎます(相続します)。そのため、親の返済義務は、原則として相続人に引き継がれることになります。
なお、借金などの金銭債務は、相続人が複数いる場合、原則として各相続人が法定相続分に応じて分割して引き継ぐと考えられています。
届いた督促状を確認せずに放置していると、遅延損害金が加算されていくことがあり、状況によっては財産や給与が差し押さえられる可能性もあります。まずは内容を確認し、適切に対応することが大切です。
支払い義務が消える「時効」が成り立つ基本条件
もっとも、どんな借金でも永久に支払い義務が続くわけではありません。借金には「消滅時効」があり、一定の期間が経過すれば、時効を主張して支払い義務を免れられる場合があります。
2020年4月の民法改正後のルールでは、消滅時効の期間は原則として、①債権者が「権利を行使できることを知った時」から5年間、または②「権利を行使できる時」から10年間の、いずれか早く到来した方とされています(民法166条1項)。
銀行や消費者金融、クレジットカード会社からの借入れのように、契約上の返済日が定まっているものは、通常①の「5年」が適用されるケースが多いと考えられます。一方、個人間の借金などでは、事情によって適用される期間が異なる場合があります。「個人からの借金は必ず10年」と一律に決まるわけではないため、注意が必要です。
期間のカウントは、親が亡くなった日ではなく、原則として「最後に返済した日」や「本来返済すべきだった日」などを基準に進みます。まずは届いた書類に記載された最終返済日や返済期日などの日付を確認してみましょう。個別のケースで時効期間や起算点がどうなるかは判断が難しいため、専門家に確認することをおすすめします。
期間が過ぎても手続きが必要|借金の支払い義務を消す「時効の援用」とは
時効の期間(5年または10年など)が過ぎていても、それだけで自動的に借金が消えるわけではありません。ここからは、時効によって支払い義務を消すために必要な「時効の援用」の仕組みと、注意すべき点を解説します。督促状を無視するのはNG|債権者へ「時効です」と伝える必要がある
時効期間が過ぎた借金について支払い義務を免れるには、お金を貸した相手(債権者)に対して「時効が完成しているので支払いません」という意思をはっきりと伝える必要があります。この手続きを法律上「時効の援用(えんよう)」といいます。実務上は、内容証明郵便などの記録が残る形で通知することが一般的です。
時効期間が経過していても、援用の意思を伝えずに放置していると、債権者が訴訟などの法的手段を取ってくることがあります。訴訟を起こされると対応が複雑になることがあるため、督促状が届いた場合は放置せず、早めに対応を検討しましょう。
注意|時効が成立しなくなる可能性がある「3つの行為」
時効の援用をする前に、注意が必要な行為が3つあります。これらをしてしまうと、借金の存在を認めた(債務の承認)とみなされ、時効が更新(リセット)されて、それまで経過していた期間がゼロに戻ってしまう可能性があります。-
一部でも返済する 「少額でも払ってほしい」と言われて応じると、借金の存在を認めたことになる可能性があります。
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支払いの猶予や分割を頼む 「今は払えないので待ってほしい」「分割にしてほしい」と伝えることも、債務の承認とみなされる可能性があります
- 返済を認める内容の書面に署名する 届いた書面に署名・捺印して返送すると、返済義務を認めた証拠として扱われる可能性があります。
突然の督促に驚いて債権者に連絡し、やり取りの中でこうした行為をしてしまうと、時効が使えなくなるおそれがあります。時効の完成が見込まれる場合は、自己判断で連絡する前に、専門家に相談することをおすすめします。
相続人が複数いる場合、時効の援用は各自で行う
親が亡くなり、子ども(相続人)が複数いる場合、「時効の援用は全員で一緒に行う必要があるのか」という疑問が生じるかもしれません。
前述のとおり、借金は各相続人が相続分に応じて分割して引き継ぐのが原則であり、時効の援用も相続人がそれぞれ個別に行うことができます。
たとえば、あなたが時効を援用すれば、あなたが引き継いだ分の返済義務は消える可能性があります。一方、他の相続人が援用していなければ、その相続人が引き継いだ分の返済義務は残り、債権者がその相続人へ請求を続けることがあります。後々のトラブルを防ぐためにも、相続人が複数いる場合は情報を共有し、それぞれが対応を検討することが望ましいでしょう。
親の古い借金を安全に調べる3つのステップ
督促状が届いたものの、「ほかにも把握していない借金があるのでは」と不安になる方もいるでしょう。親の財産や負債の全体像を把握することは、今後の対応を考えるうえで重要です。ここでは、親の借金を調べるための3つの手順を紹介します。ステップ1:手元の書類を確認する
まずは、自宅に届いた督促状や通知書を確認しましょう。そこには、現在の残高だけでなく、契約内容や最後に返済された日などが記載されていることが多くあります。
あわせて、遺品の中に古いローンカードや金銭消費貸借契約書、通帳の履歴などがないかも確認してみてください。通帳に定期的な引き落としや、貸金業者名での入出金の履歴がないかを見ることがポイントです。
ステップ2:信用情報機関に開示請求をする
手元の書類だけでは不安な場合、個人の借入れ履歴が登録されている「信用情報機関」に開示請求をすることで、借入れの状況を確認できます。
日本には主に3つの信用情報機関があり、亡くなった方の相続人であれば、郵送などの方法で開示手続きが可能です。消費者金融などの情報を扱う「JICC」、クレジットカード会社などの情報を扱う「CIC」、銀行や信用金庫などの情報を扱う「KSC(全国銀行個人信用情報センター)」の3つを確認することで、どこにどの程度の借入れが残っているかを把握しやすくなります。
ステップ3:不安があれば専門家に相談する
「自分で調べるのは不安」「信用情報機関の手続きがよくわからない」と感じる場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談する方法があります。
専門家に相談すれば、状況の整理や、時効の援用が可能かどうかの見通しについて助言を受けられます。なお、対応できる範囲は専門家の種類や債務の額によって異なります(詳しくは後述します)ので、相談の際に確認するとよいでしょう。
時効の手続きと相続放棄はどっちがいい?正しい使い分け
親の借金への対処法には、「時効の援用」のほかに、プラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継がない「相続放棄」という方法もあります。どちらも借金の負担をなくし得る方法ですが、性質は大きく異なります。ここでは、2つの違いと使い分けの考え方を解説します。
「時効の手続き」と「相続放棄」の違い
2つの方法の主な違いを表にまとめました。
| 比較項目 | 時効の手続き(消滅時効の援用) | 相続放棄 |
|---|---|---|
| 手続きの期限 | 時効期間が経過していれば行える | 相続の開始を知った時から原則3ヶ月以内(民法915条1項) |
| プラスの財産 | 相続した財産(不動産・預貯金など)は保持できる | プラスの財産も含め、一切相続しない |
| 他の相続人への影響 | 自分が引き継いだ分について解決できる | 放棄により、次順位の人が相続人になる場合がある |
「相続放棄」の期限(3ヶ月)が過ぎていても、時効なら借金を消せる
相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から原則3ヶ月以内に、家庭裁判所で手続きをする必要があります(民法915条1項)。そのため、「親が亡くなってから何年も経って督促状が届いた」というケースでは、すでに相続放棄の期限が過ぎていることも少なくありません。
ただし、相続放棄の期限が過ぎている場合でも、事情によっては期限の起算点が繰り下げられ、相続放棄が認められる可能性がゼロとは限りません。この点は判断が難しいため、専門家への確認をおすすめします。
一方、時効の援用は相続放棄とは別の制度であり、3ヶ月の期限とは関係なく検討できます。時効期間が経過している場合には、相続放棄の期限を過ぎていても、時効の援用によって支払い義務を消せる可能性があります。
状況別の主な選択肢
現在の状況に応じて、主に次のような選択肢が考えられます。あくまで一般的な整理であり、実際の判断は個別の事情によります。
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Aタイプ:最後の返済から5年(または10年)以上経っている場合 残したい財産があり、かつ時効期間が経過していると見込まれる場合は、時効の援用が選択肢になります。相続放棄の期限を過ぎている場合にも検討できます。
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Bタイプ:まだ3ヶ月以内で、時効が成立しているか不明な場合 親が亡くなってからまだ3ヶ月以内で、プラスの財産がほとんどなく、時効が成立しているか確証が持てない場合は、相続放棄も有力な選択肢です。
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Cタイプ:時効も相続放棄も使えず、返済が難しい場合 時効期間が経過しておらず、相続放棄の期限も過ぎている場合は、専門家に相談のうえ、任意整理や個人再生、自己破産などの「債務整理」を検討することが考えられます。
司法書士が対応できる範囲について
時効の援用や債務整理を専門家に依頼する場合、専門家の種類によって対応できる範囲が異なる点に注意が必要です。
司法書士のうち、法務大臣の認定を受けた「認定司法書士」は、債務者の代理人として時効の援用や債務整理を行うことができますが、これは債務(1件あたりの元本)が140万円以下の場合に限られます(司法書士法3条)。この金額を超える案件については、司法書士は代理人として交渉や手続きを行うことができず、弁護士が対応することになります。
また、認定を受けていない司法書士の場合、代理人としての交渉はできず、書類作成のサポートなどが中心となります。
ご自身のケースで債務の額がいくらか、どの専門家に依頼するのが適切かは、相談の際に確認するとよいでしょう。当事務所でも、対応可能な範囲を確認したうえで、必要に応じて提携する弁護士と連携してご案内します。
まとめ:親の古い借金を見つけたら、早めに専門家へ相談を
突然届く親の借金の督促状に戸惑うのは自然なことですが、仕組みを理解して適切に対応すれば、過度に恐れる必要はありません。最後に、重要なポイントを整理します。
まず、亡くなった親の借金は自動的には消えず、原則として相続人に引き継がれますが、時効期間(原則5年または10年)が経過している場合は、時効の援用によって支払い義務が消える可能性があります。次に、債権者への一部返済や、返済を認める言動をすると、時効が更新(リセット)されるおそれがあるため、督促を受けても自己判断で対応せず、専門家に相談することが大切です。そして、相続放棄の期限(原則3ヶ月)を過ぎていても、時効の援用であれば期限に関係なく検討できる場合があります。
親の古い借金の督促状が届いたときは、あわてて債権者に連絡する前に、まずは届いた書類を持って、司法書士の相談を利用し、状況を整理することから始めるとよいでしょう。
明成法務司法書士法人でも、相続に関するご相談を承っております。当事務所は、相続関係を確認するための戸籍収集や、相続放棄の申述に必要な書類作成のサポート、相続登記の申請といった業務を行っています。時効の援用や債務整理については、債務の額に応じて認定司法書士が対応できる範囲が定められているほか、金額によっては弁護士による対応が必要となります。当事務所では、状況をお伺いしたうえで、対応可能な範囲をご説明し、必要に応じて提携する弁護士・税理士と連携してワンストップでご案内できる体制を整えています。
初回のご相談は無料です。電話でのご相談は平日20時まで受け付けており、土日祝日のご相談にも対応しています。親の借金や相続でお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。

