遺言執行者とは?役割・指定方法・報酬相場を司法書士が解説
「父が遺言書を遺してくれたが、執行者が指定されておらず手続きがなかなか進まない」
「平日は仕事で役所や銀行を回る時間がなく、慣れない手続きに負担を感じている」
このように、大切なご家族が遺した遺言書の手続きでお悩みではありませんか。
遺言書の内容を円滑に実現するためには、「遺言執行者」の存在が重要となるケースが少なくありません。執行者がいないと、預貯金の解約や不動産の名義変更が滞り、場合によっては親族間の行き違いに発展することもあります。
本記事では、年間1,000件超の相談実績を持つ明成法務司法書士法人が、遺言執行者の権限から選び方、報酬相場までをわかりやすく解説いたします。
遺言書の「執行者」とは?役割と主な権限を解説

遺言執行者とは?遺言内容を実現する役割
遺言執行者の役割は、遺言書に記された内容を正確かつ速やかに実現することです。遺言書があるだけでは、自動的に不動産の名義が変更されたり、預金が払い戻されたりするわけではないからです。
具体的には、金融機関での預貯金の解約や払い戻し、法務局での不動産の名義変更(相続登記)などを、遺言執行者が単独で行うことができます。たとえば「長男に実家を相続させる」という遺言があれば、執行者が相続登記の手続きを進めます。
このように遺言執行者は、複雑になりがちな相続手続きを前に進め、遺言者の思いを形にする実行役といえます。金融機関ごとに異なる書類対応なども、執行者が引き受けることになります。
遺言書の執行者がいない場合、手続きはどうなる?
遺言書に執行者が指定されていない場合、相続人が協力して手続きを進めることになります。金融機関などの手続きには、相続人全員の署名・実印・印鑑証明書が求められることが多く、一人でも連絡が取れなかったり非協力的だったりすると、手続きが滞ってしまうことがあるためです。
実際に、長年疎遠だったご兄弟と連絡が取れず、預金口座が凍結されたまま時間が経過してしまうケースも見られます。また、後述する認知や推定相続人の廃除など、そもそも遺言執行者でなければ行えない事項もあります。
遺言執行者がいない場合や必要となった場合は、家庭裁判所に申立てを行い、選任してもらう方法があることを覚えておきましょう。
遺贈や認知など、遺言執行者だからこそ関わる手続き
遺言執行者には、遺言の内容を確実に実現するための権限が与えられています。なかには、遺言執行者がいなければ実現が難しい手続きもあります。代表的なものは次のとおりです。
- 認知の届出:婚姻関係にない子を認知する旨が遺言にある場合、執行者が就任後、届出を行います(戸籍法64条)。
- 推定相続人の廃除およびその取消し:著しい非行や虐待などを理由に相続権を失わせる手続きを、家庭裁判所へ請求します(民法893条)。廃除が認められるかは裁判所の判断によります。
- 遺言の執行を妨げる行為への対応:遺言執行者がいる場合、相続人は相続財産の処分など執行を妨げる行為ができないとされており(民法1013条)、これに反する行為は原則として無効となります。
相続人への通知から財産目録作成までの主な義務
権限がある一方で、遺言執行者には相応の義務と責任も課されています。相続人の権利を守り、手続きの透明性を確保するため、民法で規定されているためです。就任後に行うべき主な義務は次のとおりです。
- 就任および遺言内容の通知:任務を開始したときは、遅滞なく、その旨と遺言の内容を相続人に通知しなければなりません(民法1007条2項)。
- 財産目録の作成と交付:相続財産を調査し、目録を作成して相続人へ交付する義務があります(民法1011条)。
- 経過や結果の報告:相続人からの求めに応じ、手続きの状況を報告する必要があります(民法1012条3項が準用する645条)。
これらの義務を怠り相続人に損害が生じた場合、損害賠償請求や解任の対象となることもあるため、慎重かつ誠実な対応が求められます。
遺言執行者は誰がなれる?親族と専門家のどちらを選ぶべきか
いざ遺言執行者を決めようとすると、誰に任せればよいか迷われる方は少なくありません。法律上、特別な資格は必要ありませんが、だからこそ人選が重要になります。ご家族・ご親族を指名するケースもあれば、司法書士や弁護士などの専門家に依頼するケースもあります。それぞれのメリットと注意点、専門家への依頼を検討したい場面について解説いたします。
法律上「遺言執行者になれない」欠格事由
基本的に誰でも遺言執行者になれますが、民法第1009条により就任できない人が定められています。具体的には次の2つに該当する人です。
- 未成年者:単独で有効な法律行為を行うことができないため、就任できません。
- 破産者:他人の財産を管理する立場として適格性に懸念があるため、就任できないとされています。
これらに該当する人を遺言で指定しても、その指定は効力を持ちません。なお、指定した人が遺言者の死亡前や執行の途中で欠格事由に該当することになった場合も、資格を失う点に注意が必要です。作成前の確認をおすすめします。
家族や親族を遺言執行者に選ぶメリットと注意点
配偶者や子など、信頼できるご家族を遺言執行者に指定することも、法律上問題ありません。メリットは、専門家への報酬が発生せず、相続にかかる費用を抑えやすい点です。一方で、次の3つの点には留意しておく必要があります。
- 専門知識の不足:慣れない登記手続きや金融機関対応で書類の不備が生じ、完了まで時間がかかることがあります。
- 精神的・肉体的な負担:平日に役所や金融機関の窓口を回る必要があり、ご自身の仕事や生活との両立が難しくなりがちです。
- 相続人間の行き違いのリスク:手続きが遅れたり不透明に感じられたりすると、他の相続人から疑念を持たれてしまうことがあります。
時間的な余裕があり、親族間の関係が良好な場合を除いては、慎重に判断されることをおすすめします。
司法書士などの専門家を遺言執行者にするメリット
確実性や安心を重視する場合は、司法書士や弁護士といった専門家を遺言執行者に指定する方法があります。複雑な法律事務を日常的に扱っており、中立的な立場で手続きを進められるためです。専門家に依頼する主なメリットは次のとおりです。
- 心理的・物理的な負担の軽減:戸籍収集や窓口対応などの手続きを任せられるため、ご自身の時間の負担を減らせます。
- 相続人間のトラブルの予防:第三者である専門家が公平な立場で進めることで、相続人同士の無用な疑念を避けやすくなります。
- 手続きの確実性とスピード:不動産登記などの実務に精通しているため、期限のある手続きも滞りなく進めやすくなります。
費用は発生しますが、その分の確実性と安心感を得られる選択肢といえます。
遺言執行者は本当に必要か?指定を検討したいケース
遺産に不動産が含まれる場合や相続人が複数いる場合は、トラブル予防の観点から遺言執行者を指定しておくと安心です。執行者がいないと相続人全員の協力が必要となり、手続きが進まなくなるリスクが高まるためです。特に次のようなケースでは、専門家を遺言執行者に指定することを検討されるとよいでしょう。
- 相続人同士の関係が希薄で、全員の円滑な協力が得にくいと思われる場合。
- 相続財産の種類が多く、分配手続きが煩雑になることが予想される場合。
- 子の認知や推定相続人の廃除といった、遺言執行者の関与が必要な事項を記載する場合。
事前の対策が、残されたご家族の負担軽減につながります。ご自身の状況と照らし合わせてご検討ください。
遺言執行者の報酬はいくら?専門家別の相場と仕組み
専門家に遺言執行者を依頼する際、気になるのが費用ではないでしょうか。報酬は決して小さな金額ではありませんが、提供される専門的な対応やご家族の負担軽減効果を考えると、検討に値する選択肢といえます。また、依頼する専門家(司法書士・弁護士・信託銀行など)によって、報酬体系や相場は異なります。ここでは一般的な報酬相場と費用の仕組みを解説します。遺言執行者の報酬相場は遺産総額の「1〜3%」が目安
遺言執行者の報酬について、法律上の明確な定めはありません。一般的には、遺産総額の1%から3%程度が一つの目安とされています。遺産の金額が大きいほど管理する責任も重くなり、対応する財産(不動産や預貯金口座)の数も増える傾向があるためです。
たとえば遺産総額が3,000万円の場合、報酬は30万円から90万円程度が目安となります。これに加え、最低報酬額を20万円から30万円程度に設定している事務所も多く見られます。遺産が少額であっても、戸籍収集や各所への通知といった最低限の手間はかかるためです。
弁護士・司法書士・信託銀行による報酬相場の違い
依頼先によって、得意とする分野や報酬の水準は異なります。ご自身の財産状況や親族関係の複雑さに合わせて依頼先を選ぶことが、費用対効果を高めるポイントです。| 専門家 | 報酬相場の目安 | 得意分野・特徴 |
|---|---|---|
| 司法書士 | 20万〜80万円程度 | 不動産の名義変更(相続登記)に強みがあります。比較的リーズナブルな傾向です。 |
| 弁護士 | 30万〜100万円程度 | すでに法的な争いがある、または争いが予想されるケースに適しています。 |
| 信託銀行 | 100万円以上(最低報酬を高めに設定するケースが多い) | 資産運用を含む総合的なサービスです。実際の執行業務は提携する専門家が担うことが一般的です。 |
※上記はあくまで一般的な目安であり、金額は事務所・案件によって異なります。
当法人のような司法書士法人は、不動産登記の専門性を活かし、相続登記を含む手続きにワンストップで対応できる点が強みです。
遺言執行者への報酬は誰が払う?遺産から支払われる仕組み
遺言執行者への報酬や、手続きにかかった実費は、原則として相続財産の中から支払われます。遺言の執行に関する費用は相続財産の負担とすると民法で定められているためです(民法1021条)。
具体的には、遺言執行者が預貯金を解約して現金化したなかから報酬・実費を精算し、残りの財産を遺言書の指示どおりに相続人へ分配する流れが一般的です。そのため、相続人が自分の財布から直接持ち出しで費用を負担する必要は、基本的にありません。
もっとも、遺産が現金化しにくい不動産のみの場合などは、支払い方法について事前の協議が必要になることがある点に注意しましょう。
報酬トラブルを防ぐ!遺言書作成時に決めておきたいポイント
報酬に関する行き違いを防ぐには、遺言書を作成する段階で取り決めておくことが有効です。事前の取り決めがないと、相続開始後に相続人と執行者の間で報酬額の調整が必要となり、手続きが遅れる原因になりかねません。次のポイントを遺言書に明記しておくとよいでしょう。
- 報酬額や計算方法の明記:あらかじめ専門家と見積もりを取り、合意した固定額や割合を遺言書に正確に記載します。遺言に定めがある場合は、その定めに従うことになります。
- 実費負担の取り決め:戸籍収集の実費や交通費、郵送費など、経費の精算ルールも併せて定めておくと安心です。
事前の取り決めが、残されたご家族への配慮につながり、円滑な相続の実現に役立ちます。
遺言執行者を選任・指定する3つの方法
遺言執行者を立てるべきケースや報酬相場をご理解いただいたところで、実際の選任方法を見ていきましょう。方法は大きく分けて、遺言書での指定、第三者への委託、家庭裁判所での選任の3つがあります。このうち最も望ましいのは、ご自身の意思を明確に示せる遺言書での指定です。各方法のポイントを解説します。方法1:最も確実な「遺言書での指定」と書き方のポイント
遺言執行者を定める上で、最も確実な方法が遺言書で直接指定することです。遺言者の意思がそのまま反映され、相続開始後すぐに執行者が動き始められるためです。
書き方としては、遺言書に「本遺言の遺言執行者として、次の者を指定する」と記し、氏名・住所・生年月日を正確に記載します。専門家を指定する場合は、氏名に加えて事務所の所在地なども記載しておくとよいでしょう。
また、指定した執行者が先に亡くなった場合や就任できなくなった場合に備え、予備的に第二候補者を記載しておくと、より確実になります。作成前には、候補者に就任の承諾を得ておくことが、実務上望ましいとされています。
方法2:第三者に遺言執行者の選任を委託する方法
遺言書のなかで特定の人物を直接指定するのではなく、第三者に執行者の指定を委託する方法もあります(民法1006条)。遺言作成の時点では執行者を決めきれない場合や、将来の状況変化に備えたい場合に用いられます。
たとえば「遺言執行者の指定を、○○(税理士など)に委託する」と記載しておきます。遺言者が亡くなった後、委託を受けた第三者がその時点の状況を踏まえ、適任者を執行者として指定します。
第三者の客観的な視点が入るため、公平性を確保しやすい点がメリットです。ただし、委託を受けた人が確実に指定を行ってくれるよう、日頃からの信頼関係が前提となります。
方法3:遺言書に指定がない場合の家庭裁判所への選任申立て
遺言書に執行者の指定がない場合や、指定された人が就任を辞退・死亡している場合は、家庭裁判所に選任を申し立てることができます(民法1010条)。申立てができるのは、相続人や受遺者などの利害関係人です。おおまかな流れは次のとおりです。
- 必要書類の準備:被相続人の戸籍謄本、遺言書の写し、執行者候補者の住民票、申立書などを用意します。
- 管轄の家庭裁判所へ申立て:相続開始地(被相続人の最後の住所地)を管轄する家庭裁判所へ書類を提出し、所定の費用を納付します。
- 審判・選任:裁判所が事情を考慮し、適任と判断した人物(親族や専門家)を遺言執行者に選任します。
書類収集や申立てには手間と時間がかかるため、やはり生前の指定が推奨されます。
まとめ:遺言書作成や執行者の選任に迷ったら、専門家へのご相談を
遺言執行者は、遺言者の意思を形にし、残されたご家族の負担を軽くするための重要な役割を担います。権限が与えられている一方で責任も重く、煩雑な法律事務や金融機関への対応には時間と労力を要します。ご多忙なご親族に負担が集中すると、精神的な疲労や思わぬ行き違いにつながることもあります。
「複雑な手続きを専門家に任せて、負担を減らしたい」「円満な相続を実現したい」とお考えでしたら、ぜひ明成法務司法書士法人にご相談ください。
当法人では、年間1,000件を超える相談実績で培ったノウハウを活かし、遺言書の作成支援から遺言執行者としての就任、他士業との連携によるワンストップ対応までをご提供いたします。まずは無料相談窓口まで、お気軽にお問い合わせください。

