空き家を相続することになった場合に課せられる義務とは

2025年10月1日

空き家を相続することになった場合に課せられる義務とは

少子高齢化と住宅の老朽化が進むなか、相続によって空き家を引き継ぐケースが増加しています。
空き家を放置すると、さまざまな問題を引き起こす可能性があるため、相続人には一定の管理責任が生じます。
今回は、空き家を相続した場合の管理義務を解説します。

空き家を相続したときの基本的な考え方

民法上、相続によって取得した不動産は「財産の一部」として扱われ、相続人には管理義務が生じます。
以前は相続放棄後も管理義務があったものの、2023年4月以降は、相続人であり相続財産を「現に占有している場合」のみ義務が発生するようになりました(民法940条1項)。
現に占有している場合とは、実際に不動産を使用・支配していることです。
実際に家に住んでいるだけでなく、建物の鍵を持っているなどの状況も含まれます。
なお法改正をきっかけに、「管理義務」の呼び方も「保存義務」に変わりました。
とはいえ、実質的な中身には変化がないと考えられます。

管理義務(保存義務)の内容

管理義務(保存義務)の内容は、法律で明確に定められているわけではありません。
重要なポイントは、財産の状態を悪化させないだけでよいのか、それとも積極的に修繕・維持管理を行うべきなのかという点です。
一般的に、管理義務の範囲としては前者にとどまり、「通常の使用・保管に必要な範囲を超えて積極的に管理・修繕を行う義務までは含まれない」とされています。

具体的には、以下のような内容です。

・建物の安全性を確保する
・衛生面・景観の維持をする
・防犯・火災・災害対策を行う

それぞれ確認していきましょう。

建物の安全性を確保する

まず、建物自体の損壊や老朽化による他人への損害を防ぐのが基本です。
屋根や外壁のひび割れ、剥がれの有無を点検して、必要があれば修繕します。
倒壊の危険がある塀や門扉、腐食や雨漏りなど、チェックすべきポイントは多くあります。

衛生面・景観の維持をする

空き家が長期間放置されると、近隣住民の生活環境にも悪影響を及ぼすおそれがあります。
たとえば敷地内の雑草や庭木が、隣の敷地に伸びていきそうであれば、必要に応じて剪定・除去しなければなりません。
ゴミの不法投棄がないか巡回・確認したり、害虫や害獣の発生を防ぐのも重要です。

防犯・火災・災害対策を行う

空き家は人の出入りがないため、放火や不法侵入といった犯罪リスクが高まります。
そのため、防犯や火災予防の観点からも一定の対策が求められます。
不法占拠や放火が発生した場合、「管理を怠っていた」と判断される可能性があるため注意が必要です。

空き家の管理義務を果たさないことによるリスク

空き家を相続した場合、たとえ使用予定がなくても、所有者として一定の管理責任を負います。
管理義務を怠った場合、以下のようなリスクがあります。

・近隣からの苦情
・損害賠償への発展
・行政処分
・不動産価値の低下

それぞれ確認していきましょう。

近隣からの苦情

建物や敷地の管理が不十分だと、異臭の発生や不審者の侵入など、周囲の住環境に悪影響を及ぼします。
こうした状態を放置した結果、近隣住民から苦情が寄せられるかもしれません。

損害賠償への発展

もし他人に損害を与えた場合は、賠償責任を問われる可能性もあります。
たとえば、倒壊しかけた屋根の一部が落下して他人に被害を与えた場合、民法上の不法行為による損害賠償につながりかねません。

行政処分

空き家の状態が著しく悪い場合、「空家等対策特別措置法」に基づき、自治体から改善を求められる可能性があります。
適切な管理が行われていない建物を調査した後、「特定空家」に指定し、以下のような行政対応が実施されます。

・助言・指導
・勧告
・命令(従わない場合は50万円以下の過料)
・行政代執行

上記の処分を回避するためにも、空き家は放置せず、定期的な管理や維持を行ってください。

不動産価値の低下

手入れがされていない空き家は老朽化が進み、売却や賃貸といった不動産としての活用が困難になります。
構造部分にまで影響が及ぶケースもあり、大規模修繕を行うとすると、高額な費用が発生することも想定されます。

複数人で相続した場合の管理義務

空き家を複数の相続人で共有している場合、それぞれが共有者としての責任を持ちます。
誰が管理するのかを明確に決めないと、責任の所在が曖昧になり、トラブルの原因になるため注意が必要です。

重要なポイントは、以下の3つです。

・誰が管理を担当するか(代表者の決定)
・定期点検や修繕費の分担方法
・将来的に売却や解体を検討する際の意思決定について

合意内容を書面に残せば、将来的な紛争の抑止にもつながります。

空き家を放棄する選択肢

管理の負担が大きい場合、相続放棄を検討する方もいるかもしれません。
しかし「空き家だけを手放す」という選択肢は原則として認められておらず、相続全体を放棄する必要があります。
相続放棄を選択する場合は、相続開始を知った日から、原則3か月以内に家庭裁判所での手続きが必要です。
一度放棄をすると、他の財産も含めて一切の権利を失うため、十分に検討してください。

まとめ

空き家は使用していなくても、所有する以上は適切な管理が求められます。
管理義務を怠れば、損害賠償請求や行政処分など、さまざまなリスクがあります。
管理の手間や費用がかかることを理由に放置するのはやめましょう。
手続きなどで不安がある場合は、司法書士や行政などの専門家に相談してください。